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山口地方裁判所 昭和49年(行ウ)6号 判決 1982年10月07日

宇部市大字末信四一番地

原告

新家虎男

右訴訟代理人弁護士

吉川五男

井貫武亮

於保睦

坂元洋太郎

宇部市常盤町一丁目八

被告

宇部税務署長

柴田元隆

右指定代理人

佐藤拓

品川寿興

清水龍三

中野紀従

木梨昭三

土井哲生

徳永輝三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和四七年一一月七日付でした原告の昭和四五年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(但しいずれも審査請求に対する裁決により一部取消後のもの)を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書住居地において鉄工業を営んでいるものである。

2  原告は昭和四五年分の所得税につき被告に対し次のとおり確定申告した。

(一) 総収入金額 二一〇〇万三〇六二円

(二) 必要経費合計 一九八四万八〇六二円

(三) 総所得金額 一一五万五〇〇〇円

(四) 申告納税額 四万〇八〇〇円

3  被告は右確定申告に対し、昭和四七年一一月七日付で、別表一「被告の更正・決定額」欄のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件更正処分等」という)をした。そこで、原告は、本件更正処分等を不服として被告に対し昭和四七年一一月一三日異議申立をし、その後昭和四八年三月二九日、被告の国税通則法一一一条による教示に基づき、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は昭和四九年四月五日付で別表一「裁決額」欄のとおり本件更正処分等の一部を取消す旨の裁決をした。

4  しかしながら、本件更正処分等には、質問検査権(所得税法二三四条)行使の要件を備えないにかかわらず、原告及びその取引先に対する調査をなした違法、推計の必要性及び合理性が存しないにかかわらず推計による課税をなした違法、及び原告の昭和四五年分の総所得金額は後記原告の反論4で主張のとおり八三万六八五八円であるにかかわらずこれを過大に認定した違法があるので、本件更正処分等(但しいずれも審査請求に対する裁決により一部取消後のもの)の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、原告が昭和四五年分の所得税につき総所得金額を一一五万五〇〇〇円として確定申告したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同3の事実は認める。

4  同4の主張は争う。

三  被告の主張

1  課税の経緯

本件課税に至った経緯は次のとおりであり、被告の行なった原告及びその取引先等に対する調査は適法である。

(一) 原告は、昭和四五年分の所得について、被告に対し所得金額を一一五万五〇〇〇円とのみ記載した確定申告書を提出した。

(二) 被告は、右所得金額の記載だけではこれを算出した収入金額、必要経費等の内容が明らかでなく、また他の同業者の申告状況からみても右所得金額が極めて低額であると認められたので、原告の右申告額の適否について調査することとし、昭和四六年八月二七日被告所部調査官が原告宅に赴き、原告に対し申告所得金額の算出根拠の説明及び収入金額、必要経費に関する帳簿書類等の資料の提出を求め、その後も電話や文書による出署依頼を再三なし、あるいは文書による事業の収支状況の回答依頼をなし、更には昭和四六年一〇月一四日にも原告宅を来訪し調査への協力を求めたが、原告はこれに応じなかった。

(三) 被告は、右のような状況では原告についてこれ以上調査しても無駄であると判断し、原告の取引先等を調査することとし、これにより原告の収入金額等を把握したが、必要経費については同業者の平均的な収入原価及び一般的経費率(収入原価に特別な経費を除いた一般的な経費(外注費及び雇人費を含む)の額を加えた金額を収入金額で除した割合。以下「一般的経費率」という)により算出せざるを得ず、推計により原告の所得金額を算定し、本件更正処分等をなした。

2  推計の必要性について

(一) 前記のとおり原告は所得金額算定のための資料等の提供をせず、調査に協力する態度を示さなかったもので、このため被告は実額による所得の把握がなし得ず、推計により原告の所得金額を算定したものである。

(二) 原告は異議申立後の段階において、計算書及び多数の領収書を提出し、本訴においても同様多数の領収書等を提出している。しかしながら本訴における原告の主張によれば、昭和四五年分の所得金額は八三万六八五八円というのであるが、これは確定申告額一一五万五〇〇〇円を大きく下回るばかりか、原告の前年分の確定申告所得額が二四〇万余円であり、かつその業績には前年と昭和四五年とでさしたる変化のないことに鑑みても極めて不自然である。加えて必要経費の主要部分を占める外注費関係を例にとっても、原告提出の計算書上の金額と領収書の合計額と一致せず、また領収書と工事請求書とに多数の不突合がある等不合理な点が多く、原告提出にかかる領収書等は信憑性を欠き所得金額算定の資料と到底なし得ず、推計による課税による外ないものである。

3  原告の所得金額について

原告の昭和四五年分の事業所得金額は次のとおり三〇八万二三六六円であり、右金額の範囲内でなされた本件更正処分等は適法である。

(一) 収入金額 二一〇〇万三〇六二円

(二) 必要経費 一七八三万一五九九円

収入金額に別表二の同業者の一般的経費率八四・九〇パーセントを乗じて算出した金額である。

(三) 特別経費 八万九〇九七円

原告の昭和四五年分の支払利息である。

(四) 事業所得金額 三〇八万二三六六円

右(一)から(二)、(三)の合計を差し引いた額である。

4  推計の合理性について

被告が前記一般的経費率算定のため類似同業者を選定した経緯は次のとおりであり、前記一般的経費率によることには合理性がある。

即ち、被告は、原告と同様宇部税務署管内において当時鉄工業を営む個人事業者で昭和四五年分以前から青色申告の承認を受けている者四八名について、青色申告決算書の内容を検討し、帳簿書類により取引を正確に記帳して青色申告に基づく決算書を提出している者で(但し、更正処分等の不服申立について審理中の者並びに異議申立等の不服申立期間が経過していない者を除く)、鉄工業を年間を通じて営んでおり、その収入金額の相当部分を鉄板等を加工している者等の条件に合致する者を抽出し、かつ同業者の事業規模の範囲として、原告の年間収入金額のほぼ二分の一から二倍にあたる者を抽出し、更に原告の事業形態との類似性を高めるため材料仕入及び機械設備の少ない、しかも外注費等の支払がある類似同業者を選定したものである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1のうち、

(一) 冒頭の主張は争う。

(二) (一)の事実は否認。

(三) (二)については、被告所部調査官が昭和四六年八月二七日原告宅を訪れ、帳簿書類等の資料の提出を求めたこと、同年九月一〇日ころ被告から文書による宇部税務署への出頭要請通知のあったこと、同月一八日付で被告から文書による事業収支明細の提出要請通知があったこと、原告はこれらにいずれも応じなかったこと、及び被告所部調査官が同年一〇月一四日原告宅を来訪したことは認めるが、その余は否認ないし争う。

(四) (三)については、被告が原告の取引先等を調査したこと及び推計により課税したことは認め、その余は争う。

2  同2の主張はいずれも争う。

3  同3のうち、収入金額二一〇〇万三〇六二円及び特別経費八万九〇九七円(支払利息)は認めるが、その余は否認ないし争う。

4  同4の主張は争う。

五  原告の反論

1  調査の違法について

申告納税制度は単なる課税手続上の技術的要請によるものではなく、憲法八四条、三〇条に規定する租税法律主義の課税手続上の要請に基づくものであり、また憲法三一条の適正手続条項の要請に基づくものであって、国民は、このことから自らの申告によって納付すべき税額を確定させる自主申告権ともいうべき憲法に根拠を有する権利を有するものである。

右自主申告権は憲法に根拠を有する権利として十分に尊重されなければならず、無制約な質問検査権の行使は許されないし、このことは、質問検査権の行使が個人の営業の自由、プライバシーの自由等憲法上保障された国民の基本的人権に対し少なからぬ影響を及ぼすものであるとの点からも、同様その行使が無制約に許されるものでないことが導きだされる。

従って、質問検査権の行使は、納税者の行なった申告額が不真正であることにつき、合理的な資料に基づき合理的な疑いが存する場合に、右疑いが存する事項についてのみ、調査を正当とする理由を被調査者に具体的に明示した場合にのみ許されると解すべきであるし、とりわけ取引先等に対するいわゆる反面調査は、納税義務者等に対する適法な調査が尽くされてもなお疑問点の存する場合で、反面調査が有効適切であり、範囲、調査事項が具体的かつ明確であって、被調査者の同意がある場合にのみ許されると解すべきである。

然るに被告は、原告のなした確定申告額につきそれが不真正であると疑う理由が何らないにかかわらず、かつ原告に対しその理由を告知せず、更には調査事項を特定しないまま違法に原告に対する調査をなし、のみならず、原告に対する第一回の訪問調査の三日後に前記要件を全く備えないにかかわらず、違法に取引先等に対する反面調査を開始したものであり、右違法な調査に基づく本件更正処分等は取消を免れない。

2  推計の必要性について

推計課税は、蓋然的近似値を一応真実の収入又は支出金額と認定して課税する制度であるが、あくまで実課税額が原則である以上、納税義務者が帳簿書類を備え付けていない等実額による所得金額を算出すべき資料が存しないとき、右資料が存してもその内容に信憑性の認められないとき、課税庁の調査に対し資料提供を拒否する等非協力であるとき等、収入支出金額の実額を捕捉することができず、推計によらざるを得ない必要性のある場合に限って許されるものと解すべきである。

これを本件についてみるに、原告はなるほど帳簿を備え付けていないが、その収入金に関しては請求書により、その支出金に関しては領収書及び原告作成の賃金ノートにより正確な金額の把握が可能であり、実額による所得金額を算出する資料は存するし、右資料には十分信憑性があり、かつ原告は右資料を本訴において証拠として提出している。なお被告は、原告が被告の調査に応じなかった旨主張するが、被告の行なった実質的な調査は昭和四七年八月二七日の原告に対する訪問調査のみであり、他は留守中の訪問や電話連絡及び出頭要請の文書の発信で、これらは到底調査といえるものではない。そして、昭和四六年一〇月以降は一年以上も何ら調査活動をせず放置しておきながら、本件更正処分に及んだもので、真実は原告が被告の調査を拒否したのではなく、被告が調査を尽くさなかったに外ならない。

以上のとおり、本件は推計課税が許されるいずれの場合にも該当せず、本件更正処分等は違法である。

3  推計の合理性について

被告が一般的経費率算出に際し抽出したという類似同業者A、B、C、Dと原告とでは事業規模、形態において大きく相違しており、その一般的経費率をもって原告の必要経費を推計することは合理性を欠く。

即ち、

(一) 原告の収入金額は約二一〇〇万円であるところ、Aのそれは約三〇〇〇万円で一・五倍、Bのそれは約一三〇〇万円で〇・六倍と明らかに有意差があり、事業規模が異なっている。

(二) 原告は自らの工場、諸機械設備を持たず、かつ自己の材料に加工を加えて製品化するのではなく、手間請負により自己の使用する職人とともに現場に赴き作業し、自己の使用する職人では人役が足りないため他の業者の援助を得て、その業者へ自己の請負作業の大部分を外注するという事業形態であったもので、工場、諸機械設備等の固定資産、材料費等はなく、経費のほとんどを占めるのは外注費、雇人費であり、しかも外注費が雇人費に比し極めて高い比率を占めている。これに対し、被告が類似同業者として抽出した四業者のうちA、C、Dに関しては、土地工場、諸機械設備等を所有し、自らの工場で鉄工業を営んでいることが推定されるし、材料費に関してはA、B、C、Dの四業者とも三〇〇万円ないし七〇〇万円と相当程度の経費割合を占めており、原告とA、B、C、Dとでは根本的に事業形態が異なっている。また経費中に占める雇人費と外注費の比率についてみても、A、B、C、Dは外注費の割合が低く主として自己の使用する労働力でまかなっているのに比し、原告は外注費の割合がずば抜けて高いところ、自己の労働力によって収入を得る方がその収益率において勝り、経費が少なくて済むことは理の当然であり、この点でも原告とA、B、C、Dとは異なっている。

しかも、被告が本訴において類似同業者として抽出した四業者のうち、Dは被告が本件更正処分等に際し同業者として不適切であると除外していた業者に外ならず、推計の合理性のないことを如実に表わしている。

ところで、被告は、その抽出した類似同業者四名につき、A、B、C、Dと符号でのみ表示し、具体的な名称を明らかにしない。しかしながら被告が本件推計の合理性を主張する以上は、これを原告に具体的に検討する機会を与えねばならず、そのためには前記A、B、C、Dの具体的名称を明らかにする必要があり、守秘義務を理由に原告にその当否の検討の機会を奪うことは、手続の公正を欠き許されない。

4  原告の所得について

原告の昭和四五年分の事業所得金額は次のとおり八三万六八五八円であり、かつ原告は前記のとおり右所得金額を証する資料を有しており、所得金額を過大に認定した本件更正処分等は違法である。

(一) 収入金額 二一〇〇万三〇六二円

(二) 必要経費 二〇〇七万七一〇七円

(内訳)

(1) 外注費 一三二二万二五一一円

(2) 人件費 五六三万〇三六〇円

(3) 公租公課 四万九九四〇円

(4) 通信費 四万〇五六二円

(5) 接待交際費 六万四一五〇円

(6) 保険料 八万九六六四円

(7) 修繕費 一一万〇八八二円

(8) 消耗品費 一四万六八五八円

(9) 減価償却費 二〇万六七七八円

(10) 福利厚生費 四万六二七五円

(11) 法定福利費 三三万二四五四円

(12) 研修費 三万八〇〇〇円

(13) 事務用品費 二万六七〇三円

(14) 雑費 七万一九七〇円

(三) 特別経費 八万九〇九七円

内訳は支払利息

(四) 差引事業所得金額 八三万六八五八円

右(一)から(二)、(三)の合計を差し引いたもの

第三証拠

一  原告

1  甲第一、第二号証の各一、二、第三号証の一ないし三、第四号証の一、二、第五号証、第六、第七号証の各一、二、第八号証、第九号証の一ないし七三、第一〇号証の一ないし六、第一一号証の一ないし一七、第一二号証の一ないし四、第一三号証の一ないし一〇、第一四号証の一ないし一一、第一五号証の一ないし三七、第一六号証の一ないし一一、第一七号証の一ないし三〇、第一八号証、第一九号証の一ないし八、第二〇号証の一ないし九、第二一号証の一ないし二三、第二二ないし第二五号証、第二六号証の一ないし三、第二七号証の一、二

2  証人古田征吉、同浜原昇三、原告本人(第一、二回)

3  乙第一号証の一、二、第二号証の成立は認める、第七ないし第九号証、第一〇号証の一、二、第一一、第一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四、第一五号証の各一、二の成立はいずれも知らない。

二  被告

1  乙第一号証の一、二、第二ないし第四号証、第五、第六号証の各一、二、第七ないし第九号証、第一〇号証の一、二、第一一、第一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四、第一五号証の各一、二

2  証人和崎雅、同原田幸男、同林定義

3  甲第一、第二号証の各一、二、第三号証の一ないし三、第四号証の一、二、第五号証、第六、第七号証の各一、二、第八号証、第一〇号証の一、同号証の三ないし六、第一一号証の一ないし一七、第一七号証の一ないし三〇、第二二、第二三号証の成立はいずれも認める、その余の甲号各証の成立は知らない。

理由

一  請求原因1、2、3、及び同2のうち原告が昭和四五年分の所得税につき被告に対し総所得金額を一一五万五〇〇〇円として確定申告したことは、当事者間に争いがない。

二  質問検査権の行使について

1  原告は、被告が質問検査権行使の要件を備えないにかかわらず、原告及びその取引先等に対してなした違法な調査に基づき本件更正処分等をなしたものであることを理由に、本件更正処分等の取消を求めるので、まず右調査の適否につき検討する。

2  原告は申告納税制度につき憲法八四条、三〇条、三一条の要請に基づくものである旨主張するが、憲法八四条は租税法律主義の原則を、同三〇条は国民の納税義務を、同三一条は刑事手続における適正手続の保障を各規定するもので、右各規定から直ちに申告納税制度が導かれるものではなく、申告納税制度は、国税通則法一六条一項一号によって一定の限定のもとにはじめて認められたものであり、しかも同項はひとり申告納税方式のみならずその二号において並列的に賦課課税方式をも規定しているところである。

また原告は憲法上に根拠を有する権利として「自由申告権」なるものを主張するが、これも独自の見解であって到底採用できない。

申告納税制度は、所得金額の計算の基礎となる経済取引の実態を最もよく知っている納税者自身に、所得金額や税額を計算して申告させ、その申告した税額を納付させることが、最も合理的であるという考え方に基づくものである。

従って、申告納税制度のもとにおいては、納税者は単に自分で任意に所得金額や税額を申告書に記載して申告し、その税額を納付してしまえばよいというものではなく、税法に定めるところに従い正しい所得金額や税額を申告しなければならないし、税務署から求められれば、納税者はその所得金額の計算の基となる経済取引の実態を最もよく知っている者として、その申告の内容が正しいことを説明しなければならない立場にあるというべく、一方、税務署は国民からの信託により税法に従って適正公平な課税を実現する使命を有し、そのための手段として、所得税法二三四条一項は、税務職員が所得税の調査に必要なとき同項各号に掲げる者に対し、質問検査をなし得る旨規定しているのである。

ところで、右質問検査の範囲、程度、時期、場所等実施の細目については実体法上特段の定めはなく、これらは質問検査の必要性と相手方の私的利益との比較衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、税務職員の合理的な選択に委ねられていると解すべきである。従って、税務調査の日時、場所を被調査者に対し事前に通知せず、あるいは納税者の同意なしにその取引先等に対しいわゆる反面調査を実施し、更に調査の個別的具体的な必要性、理由を開示しなかったとしても、それらが質問検査を行なううえでの法律上一律の要件とされているものではないから、社会通念上相当な範囲において実施された場合には、適法な税務調査と言わなければならない。

3  本件における調査の経緯についてみるに、成立に争いのない甲第七号証の一、二、第八号証、乙第一号証の一、二、第二号証、証人原田幸男、同古田征吉(但し後記措信しない部分を除く)の各証言、原告本人尋問(第一、二回)の結果(但し後記措信しない部分を除く)を総合すれば次の事実が認められ、証人古田征吉の証言及び原告本人尋問の結果中これに反する部分はにわかに措信できず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

(一)  被告は、原告の昭和四五年分の所得税の確定申告書に収入金額や必要経費等の記載がなく、申告総所得金額算定の根拠が不明なうえ、その申告所得金額一一五万五〇〇〇円は原告の前年分の申告額二四〇万余円を大幅に下回っていることから、原告の昭和四五年分の所得金額につき調査を開始することとした。

(二)  被告の所部調査官は、昭和四六年八月二七日午後一時ころ原告宅を訪れ、原告に対し、昭和四五年分の申告額が前年の所得を相当下回っているので申告額が正しいかどうかの確認のため調査に来た旨を告げ、所得計算の根拠の説明及び帳簿書類や領収書等の呈示を求めたが、原告の回答は、帳簿は備えておらず領収書も全部は取っていないが、あるだけの領収書は全部宇部民主商工会(以下「宇部民商」という)に持って行って計算してもらい、申告書は宇部民商の人に書いてもらった、領収書等は宇部民商に預けたままであるとのことであった。そこで被告の所部調査官は、宇部民商に預けたままという領収書等を早急に取寄せるよう求めたところ、原告はこれを了承した。

又、被告の所部調査官は原告に対し事業内容についても質問を行ない、原告からその概要につき説明を得たが、取引先は判明したもののその取引額は明らかでなかったし、外注費や従業員数の詳細はよくわからないとのことであった。

(三)  同年九月に入り、被告所部調査官は、電話で原告に対し領収書等の取寄せを督促し、次いで宇部税務署名義の書面で関係書類持参のうえ宇部税務署に出署されたい旨通知し、更に被告名義の書面で所得の収支明細の提出を求めたが、原告はこれら要請にまったく応じなかった。

同年一〇月一四日ころ、被告所部調査官が原告宅を再度来訪したが、原告は不在であった。その後同月一六日ころ、電話で被告所部調査官が原告に対し、領収書等の取寄せに関しいまだ連絡がないのはなぜなのかと問いただしたところ、原告からはいきなり、自分で計算して申告したのにどこが悪いとの返答が返ってきた。このため、被告所部調査官は原告に対し、領収書等を取寄せたら連絡するよう告げるとともに、調査に協力が得られなければ推計によって所得を計算することもやむを得ない旨告げた。

(四)  なお、後日判明したところによれば、原告が領収書等を宇部民商に預けた事実はなく、真実はその提出を嫌った原告が、提出回避の口実として宇部民商に預けた旨虚言を弄していたものであった。

(五)  一方、被告は、昭和四六年九月上旬ころより原告の取引先等のいわゆる反面調査に着手し、原告の収入金額及び特別経費たる支払利息を把握したが、その余の必要経費については、前記のとおり原告が資料提出に応じないため実額による算定をなし得なかった。そこで、被告は、原告の必要経費については同業者の一般的経費率による推計により算定し、本件更正処分等をなした。

4  右事実によれば、原告の申告額、申告態様からして申告内容が不真実であると疑うに十分であり、税務調査の必要を認めることができるし、被告のなした原告及び取引先等に対する調査は社会的相当性の範囲内にあって適法というべく、違法と目すべき点は何ら存在しない。

三  原告の総所得金額について

1  収入金額

原告の昭和四五年分の収入金額が二一〇〇万三〇六二円であることは、当事者間に争いがない。

2  必要経費

(一)  推計の必要性について

被告は必要経費につき類似同業者の一般的経費率に基づき推計しているところ、原告は、本件更正処分等には推計の必要性がないのに推計による課税を行なった違法があると主張する。

しかし、前記二の三で認定の事実によれば、本件更正処分等においては、原告が被告所部調査官の資料提出要求に全く応じなかったため、必要経費につき実額計算できなかったことが明らかであり、本件更正処分等がなされた時点において推計の必要性があったことを認めることができる。

もっとも、前掲乙第二号証、証人林定義の証言及び原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は異議申立後審査請求の直前になって資料として計算書及び領収書を提出したことが認められ、本件訴訟においても領収書等を実額計算のための証拠資料として提出しているので、以下、原告の提出した領収書等が実額計算するに足りる資料かどうかを検討する。

ところで本訴における原告主張の必要経費額によれば、その差引事業所得金額は八三万六八五八円というのであって、その確定申告額一一五万五〇〇〇円をも下回るばかりか、原告本人尋問(第一、二回)の結果によれば、原告は前年の昭和四四年分の所得を二四〇万余円と確定申告しており、かつ昭和四四年と昭和四五年とで業態に変化はなくむしろ昭和四五年の方が忙しかったというのであって、原告の収入金額が極度に減少しあるいは必要経費が格段に増加すべき事情はみいだせず、原告の必要経費額の主張自体不自然さを免れない。

そこで、必要経費中主要な部分を占める外注費についてみるに、原告はこれを証する資料として、領収書(甲第九号証の一ないし七三)を提出している。しかしながら、証人原田幸男、同古田征吉の各証言、原告本人尋問(第一回)の結果及び弁論の全趣旨によれば、右領収書中には、審査請求の過程において外注費の立証の必要性から事後的に領収書の発行を得たものが相当数存することが認められるうえ、原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は帳簿類を備えておらず、外注費の支払は広告用紙等の裏に計算をしてなし、支払が済んだ後は右用紙等は処分し、領収書の外には何も保管していなかったことが認められるのであって、原告が事後的に発行を得た領収書に関しては、その発行を得た際その支払金額等を確認し得べき資料が既に存しなかったことが明らかであり、しかも原告本人尋問(第一回)の結果によれば、外注費の計算はそのほとんどが人役計算であったものの、その単価は職人の技倆や工事内容によって異なり一律でなかったことが認められるのであって、その正確性は極めて疑わしいという外ない。

しかも、前掲乙第二号証、証人林定義の証言によりいずれも真正に成立したと認められる乙第七ないし第九号証、第一〇号証の一、二、第一一、第一二号証、弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したと認められる乙第一三号証の一ないし三、第一四号証の一、二、証人林定義の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、証人浜原昇三の証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)中これに反する部分はにわかに措信できず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

(1) 審査請求の段階において原告が提出した外注費の領収書の合計額が、同じく原告が提出した損益計算書の外注費と一致せず、領収書合計額が七五万余円も過大となっており、しかも、原告は、損益計算書に計上するに際し、右領収書のうちいずれの分を集計から除外したのかにつき説明をなし得ないでいたこと。

(2) 国税不服審判所担当審判官(以下「審判官」という)が、原告提出の外注費の領収書それぞれにつきいずれの工事収入金に対するものであるかを質問したところ、昭和四八年一〇月一八日その回答を得たが、右回答書によれば、原告が工事発注者に提出した工事代金請求書に記載されている工事名以外のものについて、原告は外注費の領収書を提出しており、その件数は二〇件、金額にして二七五万五五九九円にものぼること。

(3) 原告の前記回答書によれば、辻岡工務店に対する支払のうち、昭和四五年二月二八日分三万四〇〇〇円(甲第九号証の九)は宇部化学工業株式会社(以下「宇部化学」という)における「2RK本体穴パチ当熔接」で、同年八月一四日分二二万六八四四円(後述のとおり本訴において領収書は証拠として提出されていない)は宇部化学における「配分コンベアー製作基礎工事」で、同年一二月一五日分九万円(甲第九号証の六八)は坂田鉄工所における「車庫基礎工事」となっており、審判官は辻岡工務店に対しても照会をなしたが、右回答書も同様の回答であった。ところが審判官が辻岡工務店を実地に調査し、工事原始記録を検討したところ、実際は右回答と異なり、昭和四五年二月二八日支払分は「ブロック土留工事」であり、同年八月一四日分は「車庫壁ブロック積及び基礎工事、ブロック塀積工事、側溝及び排水工事」であり、同年一二月一五日分は「車庫スラブコンクリート打」であったこと、更に同年一二月一五日分に関し坂田鉄工所の車庫を実地に検査したところ、スレート葺屋根であってスラブコンクリート天井ではなく、また同鉄工所の帳簿によれば、右車庫は昭和四三年一二月に取得し東洋産業に対し合計三六万一八〇七円を支払っているが、原告に対し工事を発注しあるいはその代金を支払った事実はないこと。

しかも、原告は辻岡工務店に対する支払のうち、昭和四五年八月一四日分に関しては、本件訴訟の段階においてこれを計算上除外し、領収書も提出していないこと。

(4) 田中正男に対する外注費の支払につき、原告は前記回答書により、昭和四五年五月三一日分三一万円(甲第九号証の一七)はバックフィルターであり、同年六月三〇日分三七万円(甲第九号証の二五)は四八〇型つねきちボイラー煙道補強工事であり、同年八月三一日分二四万円(甲第九号証の四一)はバランス台製作である(但し同年七月三一日分二八万円(甲第九号証の三五)については回答なし)旨回答しているところ、審判官の文書による照会に対し、田中正男は、同年五月三一日分はバックフィルターであり、同年六月三〇日分は煙道工事であり、同年八月三一日分は雑工事である旨回答し、同年七月三一日分については原告と同様に回答が得られなかった。ところが審判官が田中正男に対し実地に調査したところ、田中は右四通の領収書の作成は認めたものの、回答したような工事をしたことはなく、なぜ右領収書を書いたかわからない旨述べるなど、実際に工事を外注したものか疑わしい。

(5) 井町詮に対する外注費の支払について、原告は前記回答書により、昭和四五年七月二一日分四万五〇〇〇円(甲第九号証の三二)は導入管呼出口下部修正であり、同年九年三〇日分六万円(甲第九号証の四七)は階段製作であり、同年一〇月一五日分六万円(甲第九号証の五三)はファン台熔接である旨回答しているが、審判官が井町詮に対し文書による照会をしたところ、その回答によれば、同年七月二一日分については熔接工賃ということであるが、同年九月三〇日、一〇月一五日分についてはいずれも抵抗器(熔接機械)購入代金であって、外注費ではないこと。

(6) 浜原昇三に対する外注費の支払について、審判官が浜原昇三に対し文書による照会をしたところ、同人は、昭和四五年八月一一日支払分の三三万円(甲第九号証の三九)については受取っていない旨回答していること。

(7) のみならず、審判官において原告提出の資料をもとに、原告主張の収入金額と外注費及び雇人費を月別に区分しこれを対比してみると、昭和四五年六月以降の各月の外注費及び雇人費の合計額が各月の収入金額を上回るという不合理な結果となり、更に原告の工事の受注先である大下鉄工所等よりの入金及び原告が提出した領収書の全部、給料賃金のノート(甲第二四、第二五号証)並びに原処分庁である被告の銀行調査等の調査記録等によりその現金出納を検討した結果は、同年六月以降は入金額に比し出金額が過大となり、現金出納が赤字となるという異常な結果となること。

以上の諸事実に鑑みれば、原告の提出にかかる外注費の領収書は到底信用できず、これを実額計算に使用することはできず、結局必要経費については、本件訴訟においても推計による外ないと言うべきである。

(二)  推計の合理性について

そこで、被告のなした同業者の一般的経費率に基づく必要経費の推計の合理性を検討する。

証人和崎雅の証言によりいずれも真正に成立したと認められる乙第三、第四号証、第五、第六号証の各一、二、証人原田幸男(但し後記措信しない部分を除く)、同和崎雅の各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、被告が類似同業者の一般的経費率算定のため別表二に記載の同業者A、B、C、Dの四名を抽出した経緯は次のとおりであったことが認められ、証人原田幸男の証言中一部これに反する部分はにわかに措信できず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

(1) 原告と同様宇部税務署内で鉄工業を営む個人事業者で、昭和四五年以前から青色申告書の承認を受けている者は四八名であったので、右四八名の青色申告決算書の内容を検討し、帳簿書類により取引を正確に記帳して青色申告に基づく決算書を提出している者三九名を抽出した。

(2) 次に右三九名の中から更正処分等の不服申立について審理中である者、異議申立等の不服申立期間(出訴期間を含む)が経過していない者及び訴訟係属中の者を除き、鉄工業を年間を通じて営んでいる者で、原告と同様収入金額の相当部分を鉄板等の加工により得ており、かつその収入金額が原告に近似する者として、原告の収入金額二一〇〇万余円の二分の一から二倍の範囲内にある業者を抽出したところ、一二名がこれに該当した。

(3) 更に右一二名の中から、利益率が極めて高くあるいは低い者については原告の同業者として比率を求めるグループに組入れることが適当でないので除外し、更に手間請仕事が中心で機械設備等の少ない原告の事業形態に一層類似させるため、材料仕入及び機械設備が少なくしかも外注費及び雇人費の支払の双方がある業者を抽出することとし、必要に応じ青色申告書のみならず、税務署の担当者から事情を聴取し、あるいは電話により直接業者に問い合わせ、その結果最終的に別表二に記載のA、B、C、Dの四名を抽出した。

なお本件更正処分等の時点においては、被告は右A、B、Cの外に二名を加えた五名を同業者として抽出したのであるが、右の外二名については外注費のない業者であったため、これを除外したほうが適切であることから、右A、B、C、Dの四業者を選定した。

(4) 右同業者A、B、C、Dのうち、A及びBは減価償却資産の償却につき定額法により、C及びDは定率法により計算しているところ、原告は減価償却の方法についてその選定の届出をしていないから、その方法は所得税法施行令(昭和四二年政令一〇五号)一二五条に基づき定額法によることとなるので、被告は、C及びDにつき減価償却の方法を定率法から定額法に変更して減価償却費を改算し、またDの損益計算書の売上原価は、製造原価計算方式により作成されているため、他の同業者A、B、Cと同様な商業計算方式による損益計算書に調整のうえ、別表第二のとおり一般的経費率を算定した。

右認定事実によれば、類似同業者A、B、C、Dを抽出するについての基準、方法は合理的なものと認めることができ、その一般的経費率により原告の必要経費を推計計算することは相当というべきである。

もっとも原告は、原告とA、B、C、Dとでは事業規模及び形態が全く異なる旨反論するが、前掲乙第三、第四号証、第五、第六号証の各一、二によれば、A、B、C、Dの収入金額は別表二のとおりであって、Aは原告の約一・四五倍、Bは約〇・六一倍、Cは約〇・八七倍、Dは約〇・七七倍といずれも類似の規模の範囲内にあると推認できるし、その事業形態に関しても、前掲乙第三、第四号証、第五、第六号証の各一、二、弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したと認められる甲第一〇号証の一、三、五、第一一号証の一、一〇、一一、第二二、第二三号証、乙第一五号証の一、二、原告本人尋問(第一回)の結果及び弁論の全趣旨によれば、工場を有しているのはDのみであり、A、B、Cは原告同様工場を有していないこと、Dは工場を有していることから事業形態が原告と異なるようでもあるが、材料費等(売上原価)を除いた必要経費のうち、工場の有無と関連性の薄い雇人費及び外注費の金額を差引いた経費(以下「経費」という)についてみると、Aは四八一万〇六五〇円、Bは三二六万三七七〇円、Cは五三六万一六三五円であるのに対し、Dは五六六万八九四九円とDの方が上回っているし、右経費の収入金に対する割合をみても、Aは約一五・八パーセント、Bは約二五・四パーセント、Cは約二九・三パーセントであるのに対し、Dは約三四・八パーセントとなり、工場を持たないA、B、Cの方が、Dと比較して、その支出がいずれも下回っており、原告及びAないしDのような鉄板受託加工業においては、工場の有無によって損益が大きく影響を受けることは考えられず、同業者抽出の基準に工場の有無を加えることは意味のないこと、機械設備に関しては、原告においても小さな道具類は有しているし、車両は三台保有し、電話も三台あり、AないしDに比較しそれほどの差異はないこと、AないしDは材料費が三〇〇万円ないし七〇〇万円を占めている旨原告は主張するが、右金額は消耗品費、減価償却費及び一般経費のすべてを含んだ金額であり、AないしDの収入金に対する材料費の割合はAが二・六パーセント、Bはゼロ、Cは二・四パーセント、Dにおいても八・七パーセントであって、AないしDは原告主張のような自らの材料に加工を加え製品化する業者ではないことが認められる。

また原告は、原告の外注費の割合がAないしDと異なってずば抜けて高い旨主張するが、前記三の2の(1)でみたとおり、原告の外注費に関する領収書は信憑性に欠けその具体額は不明であり、従って右主張自体失当であるし、仮に外注費の割合が高いとしても、原告主張のように自己の雇用する労働力によって収入を得る方がその収益率において勝り、経費が少なくてすむと言えるかどうかは、常傭の従業員を雇用する場合の賞与、法定福利費及び厚生費、更には消耗品の負担、仕事の繁閑からくる作動効率等を総合的に考慮してみると疑問であるし、現に原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は仕事の繁閑に対する対応策として外注に依存し、むしろコストダウンをはかっていることが認められる。

更に、原告は、同業者をAないしDと符号でのみ表示し、その氏名を明らかにしないことは反証の機会を奪うものであり手続の公平上許されない旨主張するが、確定申告により被告が知り得た同業者の所得の内容等は、被告が職務上知り得た当該同業者の営業上の秘密に属する事項であるというべく、被告は所得税法二四三条、国家公務員法一〇〇条一項によりこれを明らかにすることはできないところである。しかしながら、そのことのゆえに原告の反証の機会が奪われるわけではなく、被告としては乙第三、第四号証、第五、第六号証の各一、二につき、証人尋問により作成者の特定、書証の信憑性、正確性、選定の合理性等の立証を行ない、原告もこれについて反対尋問によって反論の機会を得ているし、更に原告としては、自己の事業内容を明らかにすることによって、これら被告の立証に対し反論なし得るのであるから、被告の右のような氏名を開示しない立証も許されるものというべく、原告の主張は失当である。

以上の次第で、原告の反論はいずれも採用できず、前記推計の合理性についての判断を左右するに足りない。

(三)  必要経費額について

原告の収入金額二一〇〇万三〇六二円に前記認定の同業者の一般的経費率八四・九〇パーセントを乗じた一七八三万一五九九円と認定するのが相当である。

3  特別経費

特別経費として支払利息があり、その金額が八万九〇九七円であることは、当事者間に争いがない。

4  事業所得金額

前記1の収入金額二一〇〇万三〇六二円から、同2の必要経費一七八三万一五九九円と同3の特別経費八万九〇九七円の合計額を差引いた三〇八万二三六六円が、原告の昭和四五年分の事業所得金額と認められる。

四  まとめ

以上の次第で、被告の調査は適法であり、かつ原告の昭和四五年分の総所得金額は三〇八万二三六六円と認められるところ、右算定に際し必要経費を同業者の一般的経費率に基づき推計したことに関してはその必要性及び合理性を認めることができるし、本件更正処分等(但し審査請求による裁決により一部取消後のもの)は、原告の総所得金額を二八五万一三三二円として右認定の総所得金額の範囲内でなされたものであり、適法である。

よって、原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西岡宜兄 裁判官 紙浦健二 裁判官 上田昭典)

別表一

<省略>

別表二

昭和四五年分に適用した一般的経費率表

<省略>

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